通信事業者は多くの経営課題に直面しています。

その1つが、電気料金の高騰です。

最近の電気料金の高騰は、大量の電力を消費する通信事業者を圧迫しており、効率的な電力利用が経営課題として浮上してきました。

さらに、コストだけでなく、温室効果ガス削減目標を達成するためにも、通信事業者は効率的な電力利用を求められるようになっています。

さらに、産業界は一斉に二酸化炭素の排出削減に動き出しています。例えば、自動車業界で今ホットなテーマとなっているのが、「カーボンニュートラル燃料」の実用化に向けた技術開発です。

カーボンニュートラル燃料は、再生可能電力で生成した水素と大気中から取り込んだ二酸化炭素を合成して作られる燃料で、ガソリンや軽油の代わりに従来のエンジン(内燃機関)で利用できるようにすることを狙っています。燃焼時には二酸化炭素排出を排出しますが、製造時に吸収される二酸化炭素を差し引くことで、実質的にカーボンニュートラルを可能にするのです。

例えばホンダはEV(電気自動車)などへ経営資源を集中することを理由に、2021年にF1向けエンジン開発から撤退していましたが、2026年からF1で100%カーボンニュートラル燃料の利用が義務付けられることを受けて、5月に復帰することを発表しました。F1でのカーボンニュートラル燃料の実用化に向けた技術開発を、脱炭素時代の車造りに活かしていこうというのです。

現状ではカーボンニュートラル燃料はコストが高くついていますが、将来石油燃料と同 水準にまで下がることが期待されています。世界の自動車市場のゲームチャンジャーとなる可能性があるのです。

通信事業者のCO2削減への取り組みで、自動車業界におけるカーボンニュートラル燃料の実用化以上に、重要な役割を担うことが期待されているのが、「コヒーレント光技術」のイノベーションです。

コヒーレント光技術は、光の位相、

振幅、偏向を利用してより多くの光伝送情報を送ることにより、同一の光ファイバー上で、格段に多くのデータを伝送することを可能にします。Cienaは、2008年に他社に先駆けてコヒーレント光技術を用いた光伝送モデム(WaveLogic 2)を初めて製品化し、このモデムで40Gb/s DWDM伝送を実現しました。その後も、高度な符号化や前方誤り訂正(FEC)アルゴリズムなどの技術革新によって、波長あたりの伝送容量を拡大し、2009年には100Gb/s、2017年に400Gb/s、2020年には800Gb/sに対応した光伝送装置を市場に投入しています(図表1)。

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図表1 コヒーレント光技術による1波長あたりのデータ伝送速度(Gb/s)の推移

設備コストと電力消費・CO2の削減に貢献

AI技術の発展などにに伴いネットワークトラフィックは、今後もハイペースで伸びていくものと見られています。これに対応できる大容量のネットワークをいかに効率的に整備するかは、通信事業者にとって最も大きな課題といえるでしょう。

コヒーレント光技術の革新は、2つの点で、通信事業者の設備投資(CAPEX)の低減に寄与しています。

1つは、光ファイバーの整備コストです。Cienaの最新の光伝送装置用チップ「WaveLogic 5 Extreme」は、10年前の10 Gb/s DWDM設備の80倍の波長伝送能力を持つ800Gb/sの超高速バックボーンを同じ光ファイバーで構築することを可能にしています。

既存のファイバープラントをそのまま利用して大容量化を実現することで、光ファイバー設備の更新や増設を先送りできるのです。

もう1つが、ファシリティコストです。「WaveLogic 5 Extreme」を搭載した光伝送装置のの設置スペース(フットプリント)は、前世代の製品以下に抑えられています(図表2)。

例えば、1500km離れた拠点間に容量6.4Tb/s の伝送設備を整備する場合、2020年に製品化されたWaveLogic 5 Extreme(400Gb/s伝送)を搭載した光伝送装置は、2012年発売のWaveLogic 3 Extreme(100Gb/s伝送)を搭載した装置に比べ、設置スペースを実に87.5%削減することを可能にしています。

通信事業者はネットワーク機器を収容するデータセンターを増設することなく、高速・大容量化を実現できるのです。

コヒーレント光技術のイノベーションは、運用コスト(OPEX)の削減においても大容量ネットワークの整備に大きく貢献してきました。特に重要なのが電力消費の大幅な削減を可能にしたことです。

前述の容量6.4Tb/s の伝送設備をWaveLogic 5 Extremeで構築した場合のビットレートあたりの消費電力は、WaveLogic 3 Extremeの2割に留まります。

データセンターなどで用いられる「特別高圧」の電気料金は、エネルギー価格の上昇により、2022年12月時点で2年前の2.4倍に高騰、23年に入っても高止まりしています(出典・新電力ネット「電気料金単価の推移」)。コヒーレント光技術の進歩は、通信事業者が、こうした事業環境の変化に対応する上でも重要な役割を担っているのです。

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図表2 コヒーレント光技術のイノベーションによる設置スペース・消費電力の削減効果

重要なのが、この消費電力の削減が、冒頭で述べた二酸化炭素の排出削減に直結していることです。

当社の試算では、Cienaの継続的なコヒーレント光技術イノベーションにより、世界の通信事業者はCienaの機器を導入する シュル ことで、2012年から2021年度末までにCO2排出量を450万トン削減しています。WaveLogic 5 Extremeは出荷開始後18カ月で、10年間のCO2排出量の50%相当の削減に貢献しました。

Cienaが2024年前半に発売を予定している1.6Tb/s対応の光伝送モデム「WaveLogic 6」では、スペース、ビットあたりの消費電力、CO2排出量が、WaveLogic 5の半分になります。

日本でも政府が2050年までにカーボンニュートラルを実現する方針を打ち出しています。大手通信各社はこれを受け、2030年度から2040年度にCO2排出量を実質ゼロとする計画を表明していますが、他産業でのCO2削減の取り組みが進めば、前倒しでの実現を求められる可能性もありそうです。

WaveLogic 6を搭載した多様なネットワーク製品は、CAPEX、OPEXの削減を通じて急伸するトラフィックに対応できる大容量ネットワークの整備に貢献すると同時に、通信事業者のCO2排出量ゼロの目標達成に大きく寄与していくことになるでしょう。