クラウドのエッジ化を促す要因
コンピューティング集約型で遅延が許されない新世代のクラウド・ネイティブ・アプリケーションが登場しています。Cienaのミッチ・シムコー(Mitch Simcoe)が、エッジ・クラウド・アーキテクチャーに移行して多岐にわたる新しいユースケースに対応する方法について詳しく解説します。
これはエッジ・クラウドのブログ・シリーズの第1回目です。シリーズ第2回目のビーチフロントの立地がクラウドのエッジ化に役立つ仕組みもご覧ください。
クラウド・サービスは広く普及しており、OTT(オーバー・ザ・トップ)ビデオ・コンテンツをビンジウォッチング(イッキ見)する個人ユーザーから、SaaS(Software-as-a-Service)を導入する企業まで、さまざまなユーザーがコンテンツとアプリケーションを利用するための一般的な方法になっています。大規模な集中化されたデータセンターとクラウド・アーキテクチャーが、長年にわたってこれらのサービスにアクセスとインフラを提供してきました。
現在、エンターテインメント、小売、製造業、自動車などの分野で、新世代のクラウド・ネイティブ・アプリケーションが登場しています。これらのアプリケーションは多くの場合に、コンピューティング集約型であり、遅延が許されません。従来の集中型クラウド・アーキテクチャーは、これらのアプリケーションやユースケースに求められるユーザー体感品質(QoE)の期待に応えることができず、今後はより動的で分散化されたクラウド・モデルが必要になります。
というわけで、期待されるQoEを達成するには、エンドユーザー(人とマシン)がコンテンツを作成または利用する近辺のネットワーク・エッジにコンピューティングとストレージのクラウド・リソースを移動する必要があります。この新しいアプローチはエッジ・クラウドと呼ばれ、ストレージとコンピューティングがエッジにおいてネットワーク接続されます。
このブログ・シリーズの第1回目では、業界におけるエッジ・クラウドの推進要因、課題、機会について解説し、エコシステムのプレイヤーが集中化されたクラウド機能の一部をエッジに移動するためにどのような準備を行うべきかについて説明します。
エッジ・クラウドとは?
Cienaは、エッジ・クラウドをクラウド・エコシステムとして定義しています。このクラウド・エコシステムは、物理的にエンドユーザー(人とマシン)の近くにあり、拡張性とプログラマビリティーに優れたネットワーキング・コンポーネントと連携する、市販の汎用的なコンピューティング/ストレージ・コンポーネントが組み込まれています。これらのコンポーネントは相互接続によって、世界中にある集中化された従来型のデータセンター・ネットワークと相互接続するエッジ・クラウドを形成します。したがって、このエッジ・クラウドは、変化するニーズに合わせて安全かつリアルタイムに感知および適応を行えるように、アプリケーション対応である必要があります。
エッジ・クラウドのもう1つの見方として、現実世界の類似例と比較することもできます。 Amazonのようなeコマース企業が事業を始めたときには、たとえばシアトルなどの本社近くの倉庫からすべての商品を出荷するでしょう。 この方法は地域に限定された規模ならうまく機能しますが、全国に拡大したときには配送時間の点でお客様の期待に応えられなくなる可能性があります。 Amazonは配送時間(エッジ・クラウドではネットワーク・レイテンシー)を大幅に短縮するために、全米の顧客がいる地域の近辺に倉庫を建てて、それぞれの地域で在庫(エッジ・クラウドではコンテンツ)を維持しました。 これらの地域の倉庫は、エッジ・データセンターに類似しています。 Amazonはマンハッタンに複数の小さな倉庫を建設することで、このコンセプトを最大限に活かし、商品の配送時間を数日から数時間に短縮しました。
エッジ・クラウドのニーズを推進するアプリケーション
リアルタイム・レイテンシーが必要なアプリケーションの数は増えています。これらのビジネス推進要因には、消費者行動だけでなく、運用の向上やより高いカスタマー・エクスペリエンスによる収益化を目指す企業も含まれます。帯域幅や低遅延に依存するこれらの分野において、次のような新しいユースケースが登場しています。
このようなアプリケーションの中から、消費者と企業の両方を対象とするアプリケーションのいくつかを詳しく見ていきましょう。
1)ストリーミング・ビデオ/コンテンツ・デリバリー
消費者がPCやモバイル・デバイスを使ってライブビデオや録画ビデオを次々とストリーミングしているため、ユーザーの近くにコンテンツを移動することで、パフォーマンスを向上させて長距離ネットワーキングのコストを最適化するニーズが増大しています。エッジ・ストレージの従来型のユースケースは、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)とローカル・キャッシュを利用する方法でした。この方法では、エンドユーザーがコンテンツを利用するエリアに最も近いエッジ・データセンターに人気があるコンテンツをキャッシュします。
2)クラウド・ゲーム
クラウド型ゲームのシナリオでは、ゲーマーは従来のゲーム機のような専用ハードウェアを使用する必要がありません。ゲーマーはこれまでと同様にゲーム・コントローラーを使用しますが、好みのデバイス(タブレット、コンピューター、スマートフォン)にインストールされたゲーム・アプリに接続してプレイします。エッジ・コンピューティング・モデルでは、エッジ・コンピューティング・データセンターにあるサーバーからゲーマーのデバイスにゲームビデオがストリーミングされます。ローカル・ゲーム・セットアップと同様のパフォーマンスを得るために、これらの接続では低遅延とゲームビデオに必要な帯域(4Kが普及中)の両方をクラウド・エッジから提供する必要があります。
3)キャッシュレス小売店舗
これは、小売店舗(例:Amazon Goストア)が店舗の天井に設置したカメラを使って、買い物客が購入する商品の画像をキャプチャーするという新しいアプローチです。AIを使ってこれらの画像を分析することで、買い物客が購入した商品を判別し、購入した商品の代金をクレジットカードに直接請求すると同時に、レジに並ぶ必要性をなくします。ほぼリアルタイムに画像を処理してシームレスな顧客体験を提供するために、小売店舗またはエッジのいずれかで大量のコンピューティングとストレージ・リソースが必要になります。
(画像の出典:https://www.youtube.com/watch?v=yeS8TJwBAFs)
4)自律運転
自動運転車は、車両内のセンサーから送信される大量のデータを処理する一方で、交通渋滞、道路の状態、事故管理に対応するために、たとえば隣の車両や街路のセンサーなどと連携してこれらのデータの一部を処理する必要があります。データを処理してから車両に戻してアクションを実行するまでのレイテンシーは数ミリ秒以内に抑えなければならないので、エッジ・データセンターをユーザーの近辺に配置することで、これらのアプリケーションのSLA要件を満たす必要があります。
5)産業用IoT/スマート製造
これは、製造プロセスの高度なカスタマイズと自動化を促進するインダストリー4.0を中心とするイニシアチブです。製造ラインは、ローカル・コンピューティング・リソースによってきめ細かく制御される機能を備えた産業用ロボットによって動かされます。これらのリソースは、機械学習とAIを使って製造プロセスの不具合を検出し、状況に応じてリアルタイムに調整します。製造現場での接続性を単純化するために、インテリジェントな産業用ロボットを5G(専用線または通信事業者のマネージド型)経由で接続します。また、製造の不具合を減らして現場の労働者の安全を最大限に高めるために、低遅延、大容量(多くの場合に必要)、高パフォーマンスが必要です。
これらのアプリケーションはすべて、次のようなクラウド・サービスの属性のいずれかを持ち、エッジ・コンピューティングのニーズを促進しています。
- AIおよび機械学習型の処理に必要な大量のコンピューティングとストレージ。
- 迅速なユーザー・フィードバックが不可欠となる低遅延パフォーマンス(10ms未満)。
エッジ・クラウドを構築する方法の詳細については、ホワイトペーパーのAdaptive Network:エッジ・クラウドのネットワーキングの役割を理解するためのフレームワークをご覧ください。